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2013年5月 9日 (木)

陸前高田にある「ジョニー」という喫茶店(2)

 思いがけず訪れた陸前高田で、以前から行こうと思っていて果たせなかった喫茶店「ジョニー」に入店することができました。入るとプレハブの店内にはカウンターと椅子席があり、奥のトイレの手前にはオルガン(?)が置かれていました。開店してそれほど時間は経っていないようでしたがすでにお客さんはいて、椅子席には地元の人らしい方が男女混合で数名、カウンターの奥に男性のお客さんが食事をしていました。

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 マスターはカウンターのお客との対応をしていて、なかなか話し掛けるタイミングを見い出せないままコーヒーを注文し、改めて店内を見渡してみます。店内でかかっているのは現在の客層を意識してなのかジャズではなくクラシックだったりしていました。でも災害支援で訪れたのであろう国内ミュージシャンのポスターも多く飾られていましたし(実際に今回訪れた店舗に著名なミュージシャンが訪れ、ライブも何回も行なわれているとのことでした)、店内に並んだレコードを見ても、ジャズ色を全く捨てたということではないようです。しばらくして私はある事に気付きました。

 カウンター奥のお客さんが懸命に、でもそれほど大きくない声でマスターに話し掛けているのですが、どうにもその内容をマスターが聞き取りにくそうにしているのです。マスターは耳に補聴器らしいイヤホンを付けているのですが、どうやら普通に話し掛けただけではこちらの言っていることがわかってもらえない感じでした。マスターは奥のお客さんに、言いたい事があるなら筆談でとしきりにすすめているのですが、その方はそうしたコミュニケーションを取ることもなく、自分の言いたいことを喋り続けています。私がその様子をはたから見ていても、お客さんの側からすれば話し相手を見付けて自分の思いの丈を喋ることが個人的なストレスの解消になるということはわかりますが、逆にそれを聞き取らなければならないということで、明らかにマスターにストレスが溜めさせているような感じがして、私はちょっと気の毒に思いながらそうしたやり取りをしばらく眺めていたのでした。

 しばらくしてそのお客さんが帰った後、恐る恐るそばにあったチラシの裏に文字を書きながら私はマスターと筆談を試してみることにしました。すると、意外に簡単にコミュニケーションが取れ、この店に関する様々な事をマスターが話してくれました。元店主が盛岡に移った後、何とか自分の色を出したお店の営業が軌道に乗ったと思った頃にあの大震災に見舞われたこと。震災後、息子さんから呼ばれて一旦陸前高田から離れたものの、お店を再開するには地元の情報が入る陸前高田の避難所で暮らしたほうがいいと息子さんを説得して戻ってきたこと。瓦礫を掘り起こして店のものを掘り起こすのは、他に何が埋まっているかわからないし、釘などが突き出ているのを踏んで怪我をする恐れもあるということで息子さんにそうした行動を制されたこともあり、元の店のものはほとんど残っていないまま店の再建に着手したことなど、私が初めて聞く生々しい話でした。今の店にあるものは全国から多くの人々の支援があって寄贈していただいたものだそうで、私が求めていた日本人のジャズ演奏家のレコードなども全てなくなってしまってはどうしようもないことがそれでわかりました。で、今はどんな感じなのか改めて聞いてみることにしました。

 陸前高田で営業を続けていた「ジョニー」店舗は盛岡に行かれた店主から今のマスターに引き継がれましたが、元々ジャズに関する詳しい知識が元の店主ほどなく、厨房での仕事が主だった現マスターには以前と同じようなコアなジャズファンの全てを受け入れるだけの気持ちの余裕がなかったというのは十分に理解できることです。コアなジャズを求める客層は盛岡のお店の方へ移っていったとは思いますが、私のように過去のお店の逸話を聞いて訪れるかなりクセのあるジャズファンの相手をしなければならないなど(^^;)、マスターの心の平穏を乱すさまざまな人たちの出入りがあったことでしょう。さらに、お店の名前が売れれば売れるほど、その名前を利用して金儲けを企む魑魅魍魎が出入りすることもあったかも知れません(この点については私の想像です)。しかしながら、マスターの気持ちというのは、あくまでマスターご本人の生活を基本として成り立たせていきたい、そのためには決してジャズだけにはこだわらず、訪れる人たちが楽しめるお店であればいいとのことでした。

 私自身ははっきり言ってコアなジャズファンではあるのですが、陸前高田「ジョニー」はこうあるべきだと自分勝手な思い込みを今のマスターにぶつけても仕方ないと思います。むしろ、地元の人たちの憩いの場ということだけでなく、全国から多くの人たちが集まる空間を今も提供し続けてくれることに対して感謝することはあれ、勝手にがっかりしてくどくどと愚痴をこぼすなんてのは恐れ多くてとてもできません。以前のお店はお正月でさえも無休で頑張って営業してきたということもあったようで、前回私が訪れた際に店が閉まっていたというのは相当運が悪かったのだとマスターには笑って言われたのですが、今後は状況によっては店が閉まっている場合があるとも言われました。しかし、私が「ジョニー」を再訪した際に店が閉まっていたとしても、いろいろ大変なんだとは思うものの、また次の機会に行けばいいやと、おとなしく引き返すことになると思います(^^)。

 そんな話を筆談を交えてしながら、次のお客さんがやってくるまで2時間弱ほどコーヒー一杯で粘ってしまったのですが、店を出て改めて奇跡の一本松の近くの道の駅(現在は施設崩壊のため営業していません)に駐車し、後から後からやってくる震災現場を見に来た人たちの中に入ってみると、やはりちょっとした違和感というものを感じてしまいました。ボランティアで訪れたのではなく、旅行で訪れたような場合、現場の雰囲気を十分感じたとしても、そこに生きる人たちの息遣いまではなかなか感じられないものです。私自身ももし車で通る際に「ジョニー」の看板を見逃してしまったら、被災地について通り一辺倒の感想しかここで書けなかったかも知れません。その意味でも今回陸前高田「ジョニー」を訪問できたことは今回の旅では特筆すべき出来事でした。今のお店は昔とは違い決して入りづらいということもなく、どんな人でもゆったりとくつろげる空間になっていますので、お近くにお越しの際にはお出掛けいただき、その雰囲気に浸っていただけると私も嬉しいです。

・ジャズタイム ジョニー 岩手県陸前高田市竹駒町字仲ノ沢9
(平成29年に別の場所へ移動する予定とのことなのでご注意を)

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コメント

へぇ ジョニーの話 知らなかったなぁ。
陸前高田 震災前にしか 行ってないなあ。美しい松林 だったよ。

ジョニーは一般的に知られていると言うより、その筋の方(^^;)に有名なお店なので、ご存じないとしても無理ないかも。ただ、現在のお店は書かせていただいたように、気楽に一人でも入ってまったりできる喫茶店ですので、機会があったらおとずれてあげて下さいね。

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